石川県立ろう学校幼稚部の教育
(昭和63年10月・創立80周年記念誌より)
 
(1)新しい校舎
 昭和59年に幼稚部新校舎が完成した。三角の屋根の玄関から中へ入ると広い遊戯室があり、登校してきた子供達は朝の絵日記指導が終わると、そこで遊ぶ。遊戯室の壁はそのまま開き戸となっており、戸を開けると棚が並んでいる。子供達はそこから遊具を取り出して遊んだり、かくれんぼする時はその中にかくれたりして、この壁を大いに利用している。
 さて、この新しい幼稚部棟の特徴は、各教室及び遊戯室にループ・コイルを張ってある事である。このループ・コイルを張ってある教室に補聴器をつけ、入力切替スイッチをTにして入れば誘導コイルが磁力線の変化を受け取り、これを拡大してイヤホンから音として取り出す事ができる。また、入力切替スイッチをMTの位置にしておけば自分の話す声や他の音も一緒に聞く事ができる。ループ・コイルを各々の部屋いっぱいに張りめぐらせてあるので、子供達は部屋のどこに行っても大体同じ強さで声や音を開く事ができるわけである。このようにして子供達の持っている聴力を活かしながら教育していこうとするところにこの新校舎の大きな特徴がある。
 各教室の横には個別指導室があり、そこからマジック・ミラーを通して、おかあさん方は授業のようすを参観できるようになっている。
 その他、ワークスペースという製作活動をする場所やデモ・ホームという家庭のダイニングキッチンのような部屋があり、日々の活動を多彩に展開できるようになっている。

(2)幼稚部の言語指導
 幼稚部では、健聴児の成長発達を標準にし、幼稚園教育要領を基に、その上に聴覚障害児としての言語指導を行っている。
 言語指導に対する考え方は、単なる言葉の丸暗記やオウム返しをさせるのではなく、子供達の生活経験から作り上げられた概念に基づいて、それに言葉を結びつけていくことによって、言葉及び全人的な発達を促すことを目指している。
 その指導の一例として、再現あそびがあげられる。子供にとって遊びは生活の総てであり、遊びの中から子供は多くの事を学んでいくのであるが、再現あそびとは子供が日常生活の中で体験した事柄を時間的、空間的にゆとりをもって、繰り返しごっこ遊びとして再現することである。再現あそびでは、実際には一度しか体験できないことでも、繰り返し.何度でも体験することができる。また、たとえ失敗してしまっても、その体験をやり直すことも可能である。そして、役割交代をすることによって、他人の気持ちが理解でき、実際場面より余裕があるので、子供のペースにあわせて子供を主体にした活動ができるのである。
 この再現あそびを通して、子供のこれまで描いていたイメージがその聴覚障害の故に、部分的であったり、脱落していたり、音や言葉のないものであったとしても、それがより鮮明になり、拡充されていくのである。
 幼稚部では、各種の行事の事後指導をはじめとして、いろいろなごっこ遊びや劇遊び等の教育活動の中に再現あそびを取り入れる事によって、子供の言葉をより豊かに、生き生きとしたものにしていきたいと考え実践している。
 一方、おかあさん方は、毎日、子供と一緒に登校し、月曜日・土曜日の授業参観日には教室の中で授業を参観したり、楽しく活動に参加したりしながら、子供とのかかわりを深めている。また、他の日は子供の精神的な負担にならぬよう、隣室のマジック・ミラー越しに子供の学習する様子を参観し、その日の学習内容や我が子の反応等の記録をとるのである。それをもとに、今度は家庭でおかあさんと子供が一日の出来事を話し合って、一緒に絵日記を書いたり、学校で経験したことをもう一度繰り返し行いながら言葉の定着をはかったりするのである。このようなおかあさんをはじめとした家族全員の理解と協力があってはじめて、子供の言語習得はより一層の効果をあげることができるのである。

(3)集団交流保育                   
 昭和55年より始まった社会福祉法人伏見台保育園との集団交流保育は、今年で9年目を迎えた。子供の人間関係をより豊かなものにするなかで、社会性や社会に適応する能力を養ったり、健聴児とのコミュニケーションの技能や態度を育てることを目標に、様々な行事や体操教室、自由遊びといった内容で月に2回程度の集団交流保育を行ってきた。
 これまでの集団交流保育の成果と反省を基に、今日では、伏見台保育園とろう学校の相方の教育課程の中に集団交流保育はしっかりと根づいている。また、相方の保護者の間にもその必要性が理解されてきたことは実践の効果である。

(4)教育相談
 幼稚部開設と同じ頃、教育相談が始まり、耳の聞こえにくい幼児に、どう接したらよいか悩む家族の相談がなされてきた。そこでは、聴覚障害児に対する家庭での接し方、補聴器の適応、言葉の指導を行ってきた。最近では、病院その他の諸機関での発見が1歳前後と早期になり、補聴器をかけて早い時期からの言葉の指導を行う必要に迫られている。又一方、聴覚に異常はないが、言葉に遅れのある幼児の相談件数も増えてきた。
 教育相談は言葉の指導に片寄らず、基本的生活習慣を身につけ、精神的・情緒的に安定し、親子関係をよりよく保つための母親指導等の幅広い指導が必要とされる。今年度は早期教育の必要から教育相談専任の教員が配置された。体制が整い、相談件数も次第に増えてきている。県内の聴覚障害乳幼児を持った両親の相談、指導の窓口として、より広く対応していきたいと願っている。

  
HOME